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判例編8:現金の相続【遺産分割協議について司法書士が徹底解説!】

状況

太郎さんは現金5,000万円をもっていましたが、亡くなりました。

相続人は一郎さんと次郎さんの兄弟2人です。
とりあえずということで、「亡太郎遺産管理人次郎」という管理口座にその現金を入れて保管しておきました。

一郎さんは、次郎さんに「現金は当然に法定相続分で相続されるべきで遺産分割の対象にはならないので法定相続分の2,500万円を引き渡せ!」と主張しました。

次郎さんは現金も不動産などと同じように遺産分割の対象になるはずだから「遺産分割協議が成立するまで管理口座に保管する!」主張しました。

さて、裁判所はどちらの言い分を認めたのでしょうか。

結果

裁判所は、次郎さんの言い分を認め、現金も遺産分割の対象となると判断しました。

民法898条により「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」として、遺産分割協議を経て実際の相続人が決まるということですね。

共有である以上、それぞれの法定相続分に応じて当然に相続されるものではないわけです。
もちろん、遺産分割協議の中で法定相続分を主張することは当然可能です。

ポイント

判例編7でご紹介しました家賃等の金銭債権は、相続開始時から発生した家賃は当然に法定相続分に応じて取得する、というのと勘違いしそうですね。

しかし、現金の場合、金銭債権と異なり債務者が存在せず、相続人間の問題として処理しやすく、また現金は遺産分割で分けやすいものであるからという学説があるようです。

実際、相続財産が不動産と現金の場合、不動産を共有にするのは後々のことを考えると好ましくないので、不動産を1人が相続し、現金を他の者が相続する、という遺産分割協議がよくなされますね。

そういう意味では、現金は遺産分割においてとても重要な役割を果たすものではないでしょうか。
当事務所のお客様もそのような遺産分割をされるケースが多いです。遺産分割の方法にお悩みの場合は、ぜひ専門家にご相談されることをお勧めいたします。

今回の参照判例:最2判平成4年4月10日家月44巻8号16号

 

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遺産分割について

ここでは、遺産分割協議について遺産分割の方法、相続人の確定及び遺産(全ての相続財産)の調査ができた上で作成する遺産分割協議書についてまとめています。

遺産分割協議の種類

遺産分割には「指定分割」、「協議分割」の2種類あり、遺産分割の方法としては「現物分割」、「換価分割」、「代償分割」、「共有分割」の4つがあります。

詳しくは、遺産分割協議の種類をご覧ください。

遺産分割協議の注意点

遺産分割協議を行う際には、いくつかのポイントがあります。
出来る限り少ない話し合いで合意を見出しましょう。

詳しくは、遺産分割協議の注意点をご覧ください。

遺産分割協議書の作り方

遺産分割協議書は必ず作成しなければならない書面ではありませんが、後日のトラブルを回避するためにも作成をお勧めします。
「相続人の範囲」、「相続財産の範囲」、「分割方法」、「新たに相続財産を発見したときの対処方法」、「作成日付」、「相続人全員の署名・実印押印」の6点を明記してください。

詳しくは、遺産分割協議書の作り方をご覧ください。

遺産分割の調停・審判

遺産分割協議が成立しない場合は、「遺産分割の審判」を管轄の家庭裁判所に申し立てる事ができます。

詳しくは、遺産分割の調停と審判をご覧ください。

遺産分割協議、および遺産分割協議書を作成する場合、いくつか注意しなければならない点があります。

遺産分割協議の注意点

■必ず相続人全員で行う
※必ずしも、一堂に会して話し合う必要はなく、全員が合意している内容の協議書を、郵送などの持ち回りで署名・押印する、という形をとっても良いです。

■「誰が」「どの財産を」「どれだけ取得するか」を明確に記載する。

■後日発見された遺産(借金が出てくる場合もある)を、どのように分配するか決めておく(記載漏れがあっても、改めて協議書を作成しなくて済むため)。

■不動産の表示は、所在地や面積など、登記簿の通りに記載する。

■預貯金などは、銀行名、支店名、預金の種類、口座番号なども細かく記載する。

■住所・氏名は、住民票、印鑑証明書通りに記載する。

■実印で押印し、印鑑証明書を添付する。

■協議書が複数ページにわたる場合は契印をする。

■協議書の部数は、相続人の人数分、及び金融機関等への提出数分を作成する。

■相続人が未成年の場合は、法定代理人(通常は親権者)が遺産分割協議に参加するか、未成年者が成年に達するのを待ってから遺産分割協議をする。

■法定代理人も相続人である場合は、互いに利益が対立することになるため、家庭裁判所に特別代理人の選任申立を行う(未成年者である相続人が複数いる場合は、それぞれ別の特別代理人が必要)。

■相続人に胎児がいる場合は、胎児が生まれてから作成する。

■相続人の一人が分割前に推定相続分の譲渡をした場合は、遺産分割協議にはその譲り受けた者を必ず参加させなければならない。

遺産分割協議の方法や遺産分割協議書の作り方を誤ると、やり直しになってしまうことがあります。不安な方は当事務所へお問い合わせください。

遺産分割協議のQ&A

Q1)夫が亡くなりました。相続人は妻である私と息子ですが、息子はまだ12歳の未成年者です。母親である私が子供の代理人として遺産分割協議を行えばよいのでしょうか?

A1)法律上、婚姻経験のない20歳未満の者(未成年者)は、その行為能力が制限されているため、原則として、法定代理人の同意を得ずに勝手に契約(法律行為)を結んだとしても、取り消されてしまうことがあります。

したがって、遺産分割協議も法律行為のひとつであるため、未成年者本人が協議書に自ら署名押印をしたとしても、それだけでは不十分です。
未成年者の場合は、通常、両親が法定代理人として、子供の生活全般における法律行為や財産管理を行うことになりますが、相続における遺産分割協議において、親も相続人である場合、利益が相反するとして、子を代理することはできません。

これは、客観的に見れば子と代理人である親の利益が相反していることから、代理を認めてしまうと、公平な遺産分割が行われない恐れがあるためです。

よって、あなたのお子さんが未成年者であり、かつ、共同相続人の1人である以上、母親であるあなた以外の代理人を立てる必要がでてきます。

そこで、親権者であるあなたは、家庭裁判所(←特別代理人の選任を受ける子の住所地)に子の特別代理人を選任してもらい、お子さんに代わって、その特別代理人に遺産分割協議に参加してもらう必要があります。

※ 家庭裁判所による特別代理人を選任せずに行った遺産分割審判手続きを無効とした判例(東京高決 昭和58.3.23)があります。

特別代理人を選任してもらう際には、申立書に候補者記入欄がありますので、相続人にとって利害関係のない者(叔父・叔母、弁護士など)を候補者として記入しておくと良いでしょう。

 

Q2)夫が交通事故で亡くなりましたが、現在、私は2人目の子を身ごもっています。胎児は相続人になりえるのでしょうか?また、もし仮に胎児にも相続人としての資格があるならば、遺産分割はどのようにしたらよいのでしょうか?

A2)相続における胎児の扱いについては、法律上、次のような規定があります。

【民法 第886条】
①胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
②前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは適用しない。

したがって、まだ生まれてきてはいませんが、あなたが身ごもっているお子さんについても、相続人としての権利があるのは確かです。さて、問題は、遺産分割の方です。

もし仮に、胎児が生まれてくることを前提に、先に遺産分割協議を行ってしまうと、実は1人ではなく双子(三つ子)だった、あるいは流産してしまった等の問題が発生した場合、後に各共同相続人の相続分が変わってきてしまうため、面倒なことになってきます。

胎児の遺産分割については、学説でも分かれており、①胎児が生まれてくるまでは遺産分割協議はできないとする説、②遺産分割協議は行えるが、生きて生まれてきた場合には、事後、価額による支払をすればよいとする説がありますが、先に述べた理由からいっても、胎児が生まれてくるまでは、遺産分割は待った方が無難であると思われます。

 

Q3)所在のわからない相続人がいるため、遺産分割協議を行うことができません。こういった場合は、どうすればいいのでしょうか?

A3)家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立てて、この財産管理人が家庭裁判所の許可を得て、不在者の代わりに遺産分割協議に参加することで、遺産を分割することができます。このほか、行方不明の状態が長期間続いている場合は、失踪宣告を受けて、死亡したものとする方法もあります。

 

Q4)父の遺産の分割協議を終えたあとに、父の子と名乗る人物が現れました。戸籍を調べてみると、確かに、父が認知した子でした。分割協議は一からやり直さなければなりませんか?

A4)相続人を一人でも欠いた遺産分割協議は「無効」ですから、やはり遺産分割協議はやり直さなければなりません。

なお、被相続人(当該事例では父)の死亡後に、認知の訴えや遺言により認知され、相続人になるケースもあります。

この場合、既に遺産分割協議が終了しているときには、相続分に応じた価額を支払えばよいことになっています。

 

Q5)相続人に未成年者がいます。どのように遺産分割協議をすればよろしいでしょうか?

A5)未成年者は行為能力がありませんので、未成年者自らが遺産分割協議することはできません。

そして、親と子が相続人である場合には、親は未成年者を代理することはできません(民法第826条)。

つまり、親が、その子とともに遺産分割の協議に参加する場合には、民法第826条(利益相反行為)の規定により特別代理人の選任を要します。

また、同じ者の親権に服する未成年者が2人以上いる場合には、それぞれ特別代理人の選任を必要とします。子と他の子との利益が相反するからです。

特別代理人は子の住所地の家庭裁判所に選任を申し立てます。申立に必要な書類は下記のとおりです。
   ・申立書1通
   ・申立人(親権者)、子の戸籍謄本各1通
   ・特別代理人候補者の住民票の写し又は戸籍附票
   ・利益相反行為に関する書面(遺産分割協議書の案)
      
   申立に必要な費用
   ・子1人につき収入印紙800円
   ・連絡用の郵便切手(申立てされる家庭裁判所へ確認してください。)
※事案によっては、このほかの資料の提出が必要な場合もあります。

 

Q6)私は実印を持っていません。遺産分割協議書は認印でもいいですか?

A6)認印は認められません。お住まいの市区町村役場に印鑑登録をしてください。登録できる印鑑・できない印鑑が決められていますので、詳しくは市区町村役場にお問い合わせください。

 

Q7)海外に住んでいる相続人がいて、実印がありません。どうしたらよいでしょうか?

A7)実印の代わりにサインをします。
そして、相続人が住んでいる国の日本大使館、日本領事館等で、『このサインは本人のものに間違いがない』という証明をもらいます。

なお、国によってはその国の公証人の公証で足りる場合がありますが、まずは大使館等にお問合せ下さい。

 

Q8)遺産分割協議書は相続人の人数分つくらなければいけませんか?

A8)とくに決まりはありません。1通しか作らないこともあります。
ただ、遺産分割協議書を持って銀行等の手続きをするときに、1通の協議書を使いまわすのは非効率的ではあります。

 

Q9)不動産と借金は長男が相続すると言う遺産分割協議書は可能でしょうか?

A9)そのような遺産分割協議書も可能ですが、借金に対しては注意点があります。
たとえ、『すべての借金は長男が相続する』と協議書に記載しても、債権者にそのことを主張することができません。

債権者は、法定相続分の割合で、各相続人に返済を求める権利を持っています。
なお、長男以外が債権者に返済した場合は、その返済した金額を長男に請求することができます。

 

Q10)兄弟3人で父の遺産を相続する事となりましたが長男である私が土地と自宅を受け継ぎ、銀行預金3000万円を二男、三男で半分ずつ分ける事で合意をしておりますがその場合遺産分割協議書を特に作成する必要はありませんでしょうか?

A10)遺産分割協議書は法律で規定されているものではなく、必ず作成しなければならないわけではありません。

しかし後日の紛争を避けるためにも協議の内容を明確にし書面に残したほうがよいでしょう。また、各種の遺産相続手続きにおいて遺産分割協議書の提出が必要となります。

例えば遺産分割協議によって不動産を相続する場合、不動産の名義変更には遺産分割協議書が必要になります。

 

Q11)父が亡くなり、遺言書がでてきましたが兄弟で話合った結果、遺言書にかかれた内容と違った遺産分割をする事に全員で合意したのですが問題はないでしょうか?

A11)遺言があっても、相続人全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割協議は可能です。 ただし、遺言による遺贈があれば、受遺者の同意も必要です。

遺産分割協議書は法律で規定されているものではなく、必ず作成しなければならないわけではありません。

しかし後日の紛争を避けることにも協議の内容を明確にし書面に残したほうがよいでしょう。

 

Q12)姉と二人で亡くなった父の遺産(土地、現金)を、遺産分割協議書を作成して相続したのですが、しばらくして、別の銀行口座に現金(800万円)がある事が判明いたしました。分割協議はやり直しとなるでしょうか?

A12)やり直す必要はありません。現金預金については、法律上法定相続分に従って分割されます。遺産分割協議によりこれと異なる定めにすることも可能です。また、実務上、銀行からお金を引き出す際には、銀行から遺産分割協議書の作成を求められることも多いです。

なお、遺産が不明の場合は、遺産分割協議書に『協議後存在が判明した相続財産は○○が相続する』などという文言を入れ作成する事も可能です。

 

Q13)母親と弟2人で父の遺産分割協議をおこないましたが、後になって父の遺言書が見つかりました。 分割協議を行った内容と遺言書に書かれていた内容が若干違うのですが母と弟も既に分割協議を行った内容で問題ないと言っているのですがどうしたら良いでしょうか?

A13)遺言は最大限に尊重されるものであり、また法定相続分に優先しますので、協議した内容と異なる遺言が出てきた場合は遺産分割協議が無効になります。 しかし相続人や受遺者が遺言の内容を確認の上、やり直しをしないことに同意すれば、あらためて遺産分割協議をやり直す必要はありません。

 

Q14)父が亡くなり兄弟で遺産分割協議書を作成し相続を行ったのですが、数か月後に父が認知した愛人の子が現れたのですが?

A14)認知されていない愛人の子は相続人とはなりませんが、認知されている場合は相続人となります。その場合の相続分は、平成25年9月5日以降の相続(平成13年7月1日から平成25年9月4日までの相続については、遺産分割協議等が終了していないものも含みます)については、実子と同等のものとなります。

この場合は遺産分割が終了していても無効となりますので、改めて全員での遺産分割協議をやり直すか、それが不可能であれば家庭裁判所で調停または審判を受ける必要があります。

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